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幸せな暮らしが一転

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幸せな暮らしが一転

杉並区のマンションに住む秋山義男さん(75歳・仮名)は、3歳年下の妻と預金通帳を見ながらため息をつくことが多くなった。



年金暮らしの人が「所得税・住民税・相続税」を払わない裏ワザ10

 2LDK、家賃10万円のこのマンションに住んで5年目。もともとは埼玉・川口市の築30年の持ち家に住んでいたが、夫婦2人で住むには広すぎることと、老後の資金に不安があったため、自宅を2000万円で売却した。

 「60歳で定年した時には貯金が3000万円ほどありましたが、退職後に妻と海外旅行に出かけたり、子どもが家を購入するときに頭金を出したりしているうちに、70を目前に2000万円近くまで減ってしまった。

 これでは老後の資金が足りなくなると思い、妻と相談して自宅を売ってマンションに移り住むことにしたのです」

 月々の家賃はかかるが、貯金に加えて年金収入もある。自宅売却で手にした2000万円を加えれば、老後資金は安心だと思っていた。

 引っ越した当初こそ快適な生活を送っていたが、2年ほど前から「このままで老後の生活は大丈夫か……」と不安を感じるようになったという。

 秋山さんが見落としていたのは、賃貸マンションで暮らすことは、意外におカネがかかるという事実だ。

 まず、現在のマンションに移り住むための引っ越し代や敷金・礼金で60万円近くがかかった。小さくなる住まいに合わせて家電や家具もほとんど買い替えたので、50万円近くが消えた。意外なほどに「初期費用」がかさんでしまった。

 新居に住み始めてからは、月々の家賃はもちろん、1万円の管理費も発生する。秋山さんは車を手放さなかったため、駐車場代に毎月2万円。生活費に加え、家賃や管理費がかかることの重さを次第に実感するようになったという。

 「4000万円の貯金があるうちは『なんとかなるだろう』と思っていたのですが、いまは『どうしてこんなことがわからなかったのか……』と後悔しています」

 秋山さんのように、長年住んできた一戸建てを引き払って、夫婦2人でコンパクトな暮らしをしたいというのは、誰もが夢見る「老後のささやかな幸せ」だ。

 しかし秋山さんのように、目先の資金不安から自宅を売ってしまったことで、ささやかな幸せが「真綿で首を絞められるような苦しみ」に変わる可能性があるのだ。

 『「最期まで自宅」で暮らす60代からの覚悟と準備』の著者で、住生活コンサルタントの大久保恭子氏は「定年後に自宅を売って老後資金に、と安易に考えるのは誤り」だと指摘する。

 「近年、高齢になってから生活が困窮する『老後破産』が問題になっていますが、自宅を手放してしまった人ほど、老後破産に陥る可能性が高いのです」

秋山さんの場合、家賃と管理費と駐車場代を足した額は13万円、年間で156万円。夫婦合わせて毎月20万円近い年金を受け取っているが、光熱費や通信料、食費などの生活費、医療費によって月々6万円ほどの赤字だ。

 毎年約230万円の支出があるので、自宅の売却で得た2000万円は、わずか9年で消えてしまうことになる。

 現在、秋山さんの貯金額は2200万円ほど。75歳男性の平均余命(その年齢から生きる年数)は約12年。秋山さんが平均余命まで生きるとすれば、84歳のところで貯金が尽きることになる。

 親族の支援を受けるか、生活保護を受給しなければ、夫婦で路頭に迷うことになるのだ。もし秋山さんがもっと早くに亡くなった場合、困るのは妻だ。

 配偶者が亡くなることで、老後破産の危機が増すケースは珍しいことではない。ファイナンシャルプランナー・横川由理氏が解説する。

 「夫が先に亡くなった場合、夫の基礎年金、年78万円がまず無くなります。また、厚生年金が遺族年金となり、75%に減額となります。

 そうすると、妻が受け取る年金額は大体年間で100万円ぐらい少なくなってしまうのです。高齢者にとって、年間100万円の収入減は、大きな痛手となります」

 4年前に埼玉・浦和区の自宅を売却し、夫婦で板橋区の家賃13万円のマンションに移り住んだ濱田良子さん(73歳、仮名)は、2年前の夫の死をきっかけに、家計が急に苦しくなったという。

 「夫が亡くなったことで、年金の受給額が月々12万円ほど減り、家賃の負担感が増えました。

 引っ越そうと思ったのですが、健康状態もあまりよくないうえ、女性の単身高齢者に部屋を貸してくれるところを見つけるのは困難で、夫の死後も同じところに住み続けるしかなかった。

 ここは2ヵ月間家賃を滞納すると退去、という契約になっていて、いずれそんなときが来るかもしれない、と毎月減っていく預金に不安を感じながら日々を過ごしています」

 一生続く家賃負担はリスクが高い。かといって、賃貸ではなく、自宅を売って得たおカネでマンションを購入した場合でも、自宅に住み続けることと比較すれば、やはりコストがかかる。

 管理費はもちろん、厄介なのが修繕積立金だ。これはマンションの築年数が経つにつれ、2万、3万と上がっていく。築15年の都内のマンションに住み、月の修繕費が2万円として、管理費と合わせて3万円、年間で36万円。

 70歳で引っ越し、平均余命の87歳まで17年間住むとして、612万円のカネが出ていくことになる。

 また、マンションを買った場合は固定資産税を毎年払わなければならない。都内の場合、10万~15万円が目安となる。17年間住む場合は、最低でも170万円は必要だ。

 そこに加わるのが、「大規模修繕費」である。不動産コンサルタントの長嶋修氏が説明する。

 「マンションの大規模修繕は10~15年を目安に行われます。入居した年数は関係なく、住民で一律負担することになります。

 たとえば、老後の住み替えで中古マンションを購入して、1年しか住んでいないのに、いきなり50万円程度のまとまったおカネを払わされることもあるのです」

 こちらも17年間住むとすれば、最大100万円ほど支払わなければならない可能性がある。しかも、修繕積立金はあくまでエレベーターや外壁など共用部分の修繕に使われる。室内のクロスの張り替えやフローリングの修繕などは自己負担だ。

 3年前に足立区の自宅を売り、江東区のマンションを購入した佐々木紀夫さん(73歳・仮名)も、思いもよらぬ出費に頭を悩ませている。

 「築18年、2LDKのマンションに夫婦で住んでいますが、とにかく寒いうえに、通気が悪く、梅雨時の湿気がすごいのです。毎年梅雨明けには室内がカビだらけになり、クロスの張り替えに20万円近くかかります。

 さらに妻が喘息を発症してしまい、通院と入院を繰り返すようになりました。その医療費が月に3万円かかっています」

 マンションを購入した場合でも、こうした細かいおカネが毎月、毎年、虎の子の老後資金を少しずつ蝕んでいく。

 「自宅に住み続けることで、家計の赤字化を回避し、出費を抑えることができる。言いかえれば、最後までわが家で暮らすことが、老後破産の最大の防衛策なのです」(前出・大久保氏)

 家賃ゼロで住める自宅は「老後の生活の砦」。安易に手放すのは間違いなのだ。
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    2020-11-01

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